2012年6月16日土曜日

映画『霧の中の風景』 監督 ; テオ・アンゲロプロス

◎TOKYO PHOTO  ; Τοπίο στην ομίχλη   14.6.2012

対象との緊張感を保ちながらカメラはゆっくり移動する。印象的な長いワンシーンワンカット。幻想と実在とが対話する冷酷なほど美しい映像。どんよりとした湿気を帯びた短調な音楽。幼い兄弟、旅芸人、若者、駅員、海、古びた駅舎、その後方にそびえ立つ巨大な工場の煙突群、そのすべてが悲しく暗く、東欧の現実と70年代のギリシャが浮かび上がる。

「始めに混沌があった」

冒頭のモノローグが2時間余の映像を支配する。神話に綴られた主役たちのように人々は海に向かって翼を広げるが、そこにあるのは繰り返される悲劇だけである。人類の希望であったはずの共産主義の「理想」をソビエトの悲劇を通して体験したテオ・アンゲロプロスは、視点を祖国ギリシャと東欧、人間と人間を隔てる「国境」に移していく。

名前も顔も知らない「父親」を捜して旅に出た11歳の少女ヴーラと5歳の弟アレクサンドロ ス。雲が重く垂れこめる冬の日に無賃乗車を繰り返しようやくたどり着いたドイツ国境線。闇のなか、目の前に横たわる大きな河を小さなボートでこえる兄弟。そこに轟音とともに一発の銃の閃光が走る。

「始めに混沌があった。それから、光が来た」

国境を越えた兄弟は深い霧の中を彷徨う。その彼方に二人がみたものは草原のなか逆光に揺れる巨木だった。それは幻想なのか現実なのかー。
祖国がユーロ圏離脱でゆれるなか、テオ・アンゲロプロスは今年1月交通事故に遭いアテネ近郊の病院でこの世を去る。その壮大な叙事詩は完結を見ることなく、祖国は光を求め混沌のまま未来へと続いていく。

◎霧の中の風景(1988)
TOPIO STIN OMICHLI
LANDSCAPE IN THE MIST
監督・制作・脚本;テオ・アンゲロプロス
北千住 東京芸術センター2F シネマブルースタジオにて6月26日まで上映

※東京都市モノローグ2011年の総集編(漂流する東京)
http://www.utsunomiya-design.com/photograph/tokyophoto1.html
http://www.utsunomiya-design.com/photograph/tokyophoto2.html
http://www.utsunomiya-design.com/photograph/tokyophoto3.html

文;宇都宮 保

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